人気ブログランキング | 話題のタグを見る

0093/日々の毎日の空気  /トンカツの思い出

~*
トンカツには不思議なチカラがあるのだ!



まだ10代だったころ、ぼくはあまり家には帰らなかった。その理由をここで書くとタイトル通りの内容にならないので書かないでおく。帰らないこと、それはそれでいいのだけれど、家に帰らないと困るのがお金である。食べることがまず困る。あちらこちらの人からはここへおいでよと呼んでくれるのはいいのだけれど、そうそう3食まではね。



それで、学校が休みの時期はアルバイトをするしかないと思い立ち、履歴書を書いてはアルバイト募集をしているところに面接に行く。髪は長く、しかもちょっと茶色に染めている。フランス製の非日常的なメガネをかけている。そのせいか、ほどんどが「見た目」で落とされる。「その髪は切れるの?」と。仮に受かったとしても3日ももたない。集団生活というものがまるでダメ。リーダー格からのシゴトの指示もまるでまじめに聞かない。



そんなこんなで、日々の毎日は面白くない。いっそアルバイトなんか辞めてしまった方が気が楽になるというものだ。どうしても社会になじめず、それでいてそんな自分に劣等感などない。他の連中が社会に馴染んでいるのを見て「馬鹿ぢゃない?!」の一言。ひとりっ子で育ったせいか、他者とのコミュニケーションの能力がなかった。親からもそれを教育はされなかった。



そんなある日、原宿の街を歩いていたら、路上でなにかアクセサリーらしきものを売っている連中がいた。地面に敷物を置いて、その上になんか光ったものを並べて売っていた。どれもチャチなものばかりで、商品そのものに魅力なんかは無かった。しかしあのスタイルにどことなく感動を覚えた。これだよ!これ!ぼくはこんな風に自由にやりたいのだ!!



それからぼくは、なんとなく優しそうな雰囲気の髪の長いおにいさんのそばに近寄った。そのおにいさんは革でバッグを作って売っていた。他の人たちを見回すと、浅草橋あたりで買ってきたパーツをつなげてアクセサリーを売っている。ほとんどの人たちは金銀に光るアクセサリー売りだった。女のお客さんがたくさん来ていた。



ぼくは革の商品を作ることに決めた。決めたと同時に、そのおにいさんの住んでるアパートにおしかけた。おにいさんも「おいで!」と言ってくれた。長い髪を真ん中からかき分けて、やさしい笑顔で迎入れてくれた。おにいさんは女の人と住んでいた。ぼーーっとした女の人だった。おにいさんもおねえさんも話し方がやわらかい。おふたりの生活、なんだかいいなって、そのときに思った。



使うのは牛革。染めは塩基染料。バッグの裏には豚皮を貼る。縫うのは手縫い。切り口の染まっていないところは黒のマジックで塗ればいいよ。浅草橋まで行けば安く仕入れることが出来るけど大量に買わないとね。荻窪のクラフト社だったら小売りのしているから便利だよ。穴はポンチで叩いて開けるんだ。こうやってね。模様を入れるのは、ほら、こうやって・・・。小さい革をあげるから、自分で何かを作ってごらんよ。



たった1日だけ。というか、3時間もいなかったかな。その1回だけで、ぼくは革でなにかを作ることを覚えた。ぼくにとってはこれだけ教われば充分である。問題は「革」ではなく、デザインだからだ。その方の勉強は小学校のころからやってきているんだ。製図を描くのもパターンを起こすこともお得意!では、さっそく本日から制作にかかって、明後日から営業販売だ!こーんなの、簡単ー!



革で作ったのはタバコケースにショルダーバッグ。小銭入れ。二つ折りの財布も作った。デザインだってそんじょそこらのモノとは違うし染めだって縫いだって、ピチッとしている。時間だってかけているんだ。ほら、色だって悪くはないだろう?気分は上々、自分なりに満足のものを作れた。その足で、大きな竹のカバンにぎっしり詰めて、いざ!原宿の街に!



初日の売り上げは散々だった。なにしろ革や染料や革ひもやらなにやかにやで、ずいぶんと仕入れにはお金を使ってしまった。なまじ製品に自信を持っていた分、どことなく落ち込んで帰ってきた。こうやって商品を作る場合だけは家に帰る。自分の家でないと革を広げて染料を塗ったり干したり並べたり、というのは出来ない。まぁ、またしばらく家にやっかいになるか。しかしなんだね。これじゃまるでフーテンのトラさんだよ。



うーー、しかしお金がないね。売れないだね。腹がへっただよ。なんか食べるものないのかい?なーんだ、いつも何にもないんだね。ぼくの母親は料理が出来ない。米を炊くくらいは出来るが、でもそれだけ。作ってもダメ。まずくて食べられない。なので食事は出前が多かった。しかしこうもお金がないと元気が出なくなる。お金がなくておなかがすくと、もっと元気がでなくなる。今の自分はお金がなくて元気がないのか、おなかがへって元気がないのか、考えた。考えてわかったことは「両方だ!」ということだった。笑うに笑えないこの気分の落ちようはどうすれば良いのかしらね。



とにかく元気を出さないといけない。元気があれば何でも出来るらしいし。それで、向かった先はトンカツ屋だ。こんなときこそトンカツしかないね。出てきたトンカツをガツガツ食べた。もりもり食べた。お金がなくて元気がなくてもトンカツを食えば元気になれるぞ!お金が先か元気が先か。そりゃあやっぱり元気が先だろう。アタマでそんなことを自問い自答しながらトンカツを食べた。



食べ終わって、家に戻った。やっぱりトンカツはいいもんだ。なけなしのお金を出して食べたトンカツは格別だった。食休みもそこそこにぼくはバッグやタバコケースを作った。どんどん作った。ガンガン縫った。次々に染めた。満腹なのだから、少しは休めばいいものを、腹がいっぱいの時こそ動かねば!と作り続けた。そうやって作っては原宿に持ってゆき、翌日は確かまぁまぁ売れたような記憶をしている。売れて気分の良かったことほど記憶に残らない。記憶にあるものは辛くてうまくいかなかったことばかりだ。



いまでもぼくは食休みはしない。食べたらすぐに動く。というか、動けるように食べている。休んでぼーっとしていると、いやなことばかり浮かんでくるからでもないのだが、ここで休んでしまうと、まるで食べることだけが人生の目的で、それを果たしたんだから「ここでちょっと食休み」、という感じをしてしまうからだ。あの時のトンカツだって、決して食べることが「目的」ではなかった。



目的は、まぎれもなく「動くこと」なのだから。




                          035.gif ~*
       ◆インターナルリスニング/いのちの音楽瞑想&ヒーリング◆
           ★「パートナーは太陽の樹」のページあります★
              相手の気持ちを知りたいリーディング相談
                 http://futari-no-aura.com/
                                      し ら の ゆ き ひ と
                           ▼ 

by shirano-yu | 2014-04-23 10:23 | 日々の毎日の空気

いきなり外の世界に心を向けようとしないで、いったん自分の脳の中に入りましょう。そこには自由で思い通りの世界があります。まず自分の脳の中に入って、そこからあらためてコントロールをするという手もありますから。


by りゅう